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小林旭著『マイトガイは死なず』 激動の人生が見せる昭和の輝き【緒形圭子】

「視点が変わる読書」第18回 『マイトガイは死なず』小林旭 著

 

■マイトガイはなぜ今も輝いているのか

 さらに人気に拍車をかけたのは歌だった。「渡り鳥シリーズ」では、主題歌『ギターを持った渡り鳥』をはじめ、劇中歌も本人がギターを奏でながら歌い、「流れ者シリーズ」では『ダンチョネ節』をはじめとする、地方の民謡と結びついた「アキラ節」の歌が生まれた。これらの曲が全てレコードとなって、映画の封切に合わせて売り出され、売れに売れたのだ。

 俳優が歌う半端な歌などと思わないでほしい。大の旭ファンである大瀧詠一は、「アキラは声がよく歌唱力がある。ノヴェルティー・タイプとメロディー・タイプの両方の歌を歌える」と絶賛している。

 

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 マイトガイは死なず』では、日活黄金時代に始まり、浅丘ルリ子との悲恋や美空ひばりとの結婚、日活をやめ、自ら「アロー・エンタープライズ」を設立して映画制作を始めたこと、東映の「仁義なき戦いシリーズ」への出演、ゴルフ場経営に乗り出して大失敗し、14億円の借金を抱えたこと、その借金を『昔の名前で出ています』を歌って巡業し全て返済したこと、AGFのコマーシャルソングとして作られた『熱き心に』の大ヒットなど、旭の激動の半生が描かれている。

 正直なところ、エピソードの多くは、これまで旭が出した『さすらい』(新潮社2001)、『熱き心に』(双葉社 2004)などの本と重複するが、重要なのは、タイトルの「マイトガイは死なず」が示しているように、今なお小林旭が生きていて、自分の言葉で語っているということだ。

 16歳の日活入社からがむしゃらに走り続けてきた人生の何と輝きに満ちていること! その輝きは戦後の昭和のエネルギーの賜物である。

 私は昭和39年、東京オリンピックの年の生まれだ。幼少期はちょうど旭が日活のスターとして活躍していた時期と重なる。あの頃、両親に東京の繁華街に連れていったもらった時の喧騒と活気は今も記憶に残っている。成長する日本と並走して旭は突っ走っていたのだ。

 因みに「マイトガイ」は「ダイナマイトガイ」の略である。デビュー二曲目の『ダイナマイトは百五十屯』からとられていて、「ダイナマイトのように豪快な奴」という意味がこめられている。

 石原裕次郎は198752歳で、宍戸錠は202086歳で、梅宮辰夫は201981歳で、菅原文太は201481歳で、高倉健は201483歳で、そしてかつて妻であった美空ひばりは198952歳で亡くなっている。

 本の中で旭はこう述懐する。

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緒形圭子

おがた けいこ

文筆家

1964年千葉県生まれ。慶應大学卒。出版社勤務を経て、文筆業に。

『新潮』に小説「家の誇り」、「銀葉カエデの丘」を発表。

紺野美沙子の朗読座で「さがりばな」、「鶴の恩返し」の脚本を手掛ける。

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